たのしい雑草の意地

道草できる余裕を 少なくとも一日に一度は、大きな声で思いっきり笑いたい。可笑しくって、笑い過ぎて涙が出るほどにです。お腹がよじれるほど、とも言いますね。

一日に一度も笑わないで過ごすなんて、どんな人生を送ることになるのかしら。人として笑える楽しさを捨ててしまうことであり、寂しい人生になってしまうのでは?と思ってしまいます。

それに、嬉しいことに・・・自然界へ心を向けると、いつでも、何処でも笑えるようなユーモアがたっぷり存在するのだと気がつきます。自然界は常にユーモアに溢れていますね。

例えば、カラスが風邪をひいたのかしら?と思ってしまうように声を詰まらせて「カアー!」ではなく「カッカグアッ!」とアヒルのように夕暮れの空に響かせながら住処へ帰る時。「え!大丈夫?」と声をかけたくなる。その後で、笑っちゃう。

また、子猫が自分の尻尾を捕まえようとしている必死の姿は放って置くと延々30分以上も続けます。疲れると止めるのですが、それまでは笑い通しです。

買い物に行く途中にある隣家の石塀の上では、うっかり、バランスを崩したボス猫が転げ落ちた時。その場で笑うと分かるのでしょうか?凄い目つきで睨まれるので、通り過ぎた陰で笑うのですが、そこまで笑いを堪えていた分、お腹がよじれるほどの爆笑です。

前の湖では、おすましの白鳥がよく似た別の白鳥のパートナーを、間違って追いかけていたら、おっとっと、つがいの雄が現れて突き帰され、慌てて戻ったけど、自分のパートナーに叱られてどつかれている時。「おバカだね。」と言いたいけど、気品高い白鳥さんのことですから、言いにくい。それで、後ろ向きになって他の場所に視線を移してからクックと偲び笑いをしました。

来る日も来る日も、数え切れないほどの笑える場面を見ることが出来るのですね。それは、動物や鳥類だけではなく足元の草花からでも笑えるユーモアが拾えるものです。

いつも通るアスファルト道路の端っこに近づくと、雑草がチョコンと生えています。ほんの一センチもないかも知れない割れ目からやっと生え出て、一生懸命生きようとするその真摯な姿に感動します。

こちらとしては、励まされて眺めようとしているのですが、雑草のほうとしては「ふん、そんなことは人間の勝手だ!」と言わんばかりに初めのうちは完全無視です。でも、そこで終わらせたのでは、折角の好奇心と感動が激減しますから、答えてくれるまで食い下がってみました。

「まあ!がんばっているのね。励まされるわ。こんな騒々しくって窮屈な所に、ようこそ!よく芽を出して成長してくれたわね。あなたは強いのね?」

「ふん!何だって~!おら~好きでここを選んだわけじゃないよ。気まぐれな風の奴に飛ばされたんだよ。人間のように足があるわけでもないからな。」

ちょっと僻みの傾向がある草のように思えますが・・・。

「確かに、たしかにそうね。」

「おら~、仕方がなくてここにいるんだよ。何が励まされるじゃ!おらの気も知らんで。人間たちはいいよ、気楽なもんだよな。」

「はい、確かに、たしかに。今のあなたと比べたら、そうなります。」

でも、本当のところは、真逆なのだけど。この場合は何も言えない。

「お前、人間にしては素直じゃないか?それじゃ、お前を見込んで頼みがあるよ。」

「え?ちょっと待って。何を頼むのかしら?それによっては応じられないかもしれないわ。」

「なに、簡単なことだよ。おらはここに居たくないのさ。だから、早く畑にでも移してくれや~!」

「え?だって・・・この辺りには畑はないし、それは出来ないわ。」

私は彼の願いを、きっぱりと断ってしまった。

「ふん、そうだろうよ。どうせ、おらは雑草だからな。お前には期待はずれだよ。いいさ、おらはここで大きく立派になって見せるよ。そして、種をいっぱいあちこちに撒き散らしてやるんだ。これが、おらの雑草魂(ざっそうだましい)ってやつだ。」

なんと切り替えのすばやい雑草様ですこと。何にもこだわりがないらしい。

「はい、そうですか。確かに、たしかに。」

「でも、一言だけお前に言っておくよ。人間が雑草魂って語ってるが、あれは、本当はおらたちのただの意地だよ。草意地(くさいじ)ってやつだよ。覚えとけよ。あっはっは!」

「はいはい、分かりました。また、明日ね。大きくなっていってね。」

「人間さんよ、あばよ!」

彼は、そう言うとバタバタ!バタバタ!と葉っぱを揺らして、大笑いしています。彼は、まったく辛そうにも残念そうにも見えず、むしろ逆境を楽しんで面白く生きている感じがしました。人間の私が感情移入して、必死の姿を見ては、勝手に励まされていたのでしたが、それはそれでいいのですね。これが「雑草のたのしい意地」である「草意地(くさいじ)」なのだと知りました。

私は彼に気づかれないように、決して振り返らずに歩きながら、思いっきり笑いました。明日は、少し大きくなった彼とどんな会話のやりとりになるのかな?とわくわくしながら。

雑草が言う「自然界はユーモアがいっぱいさ」
苦労や悲痛について考える暇がない
ただ、生きるのに忙しいから。
何に対してもこだわりがないから屈託もない
ユーモアたっぷり生きている。

(by 徳川悠未)