落ち葉のリレー

落ち葉群 秋の蜂蜜色の空気が街をおおい、冷たい風が細く吹きつける頃になると、小さな公園が武陵桃源になります。

足元でカサッコソッ!と聞こえてくるのが褐色や黄金色に円熟した枯れ葉たち。青々としていたその生命力に終止符を打つにあたっても、美と麗しさを提供してくれますね。

枯れていく姿は・・・まるで、人が活力溢れる若々しい時代から、知らず知らずに老いていく過程に似ているものですね。そして、生涯を終える時には、このように美しく円熟して閉じるのがいいですよ、と教えてくれてるかのようです。

そんなことを思いながら、街中にある小さな公園でのひと時を心豊かにして過ごした日のことです。この日、足に絡みつく落ち葉たちに、身を屈めて耳を傾けたら、楽しい会話がカサッコソッ!の中に混じって聞こえてきました。

すると、どうでしょう。今日は落ち葉たちにとって生涯最後のイベント・・木の葉の人生を締めくくる短距離リレーがあるそうです。興味深いので、じっくりベンチに腰をおろして自然界へと入り込むことにしました。

シーソーの陰に溜まっていた落ち葉の群れから、ささやく声が聞こえます。どうやら、そこが、スタート地点みたいです。

やがて、急に元気な声が公園に鳴り響きました。

「位置について!用意ドン!」
秋風が優しく微笑みながら親切に押し出します。でも、数枚の落ち葉は、リレーに対してやや渋っているようです。

「これで、最後になるんですもの・・そうそう、たやすくスタートできるものじゃないわよね。」
そんなささやき声が聞こえてきます。それでも、秋風は、笑いながらも、その勢いを強めました。なにやら、とても面白くなってきました。

「もう!走るしかないんだわ。仕方ないわね。」
数枚の落ち葉はブツブツと言いながらも風に逆らえない、と思ったのでしょうかしら・・・風下へ向かって「カサカサッ!」と動き出しました。準備万端の様子を示していた他の多くの落ち葉は、ニコニコしながら、力強く一斉にスタートします。

落ち葉の終焉となるリレーが始まりました。

私としては、ゴールである砂場に向かって目の前を走っていく落ち葉たちを眺めて、感動しました。目を凝らしてよく見ると、一枚一枚がまったく同じ形や柄ではなく、色も違っています。模様の具合、葉のよじり方、欠けた所が全部違っています。職人さんによって染めあげられたかのような多種多様な姿です。あら、誰かさんの顔に似ているような落ち葉もいました。

彼らがゴールへ着くと次のレースが、始まります。シーソーの下で、風が止んでいるうちに落ち葉たちがスタートラインについています。

すぐに、風が来ました!「ゴー!」すると、今度は落ち葉たちが遊びたくなったのでしょうか。ゴールの砂場を目指すのではなく、こちらのベンチの方向へ駆けてきます。

あら、近づいたので、落ち葉たちの会話がはっきり聞こえてきました。

「次の風さんが押してくれると、ついにゴールね。風まかせって言うのが不安だわ。そんなふうに生きたことないんですもの。」

「そうね、あなたはそうだったわね。でも、ついに・・・この最後だけはいいんじゃないかしら。風さんに任せて、あちらこちらに散った方が。それがまた、人間には楽しいみたいだから。」

「ああ~、わたしは元いた枝に戻って、空を見ながら揺れていたかった。こんなに老いた自分が悲しいわ。ゴールの砂場に着いたら土になるのを待つだけなんですもの、考えるだけで空しいわ。」

「そうね、確かに。でも、わたしは思ったの。どんなに努力しても木の枝には戻れないんだわ。どんなに心配しても土になっていくのよね。だから、せめて土になって他の生物の栄養素になったり、或いは、次世代の葉っぱの役に立とう、と。」

「ふうん、あきらめる勇気があるのね。わたしは駄目だわ。なかなか、そこまで考えられない。ここまで来た今でも、自分が不幸だと思うわ。とてもじゃないけど、人間を楽しませよう、なんて気がつく余裕もなかったし。」

「そうね、自分の最後の日ですものね。だけど、不思議にも・・・わたしはすごく幸せなのよ。だって、若葉の時に落ちなかったし、きれいに枯れるまで長い間、枝に留まってこられたし、最後はこうしてあなたと一緒に楽しくかけっこできるんですもの。同じ世代のあなたが居てくれて嬉しいの。今も、ありがとうね。感謝してるわ。」

「まあ、そうなの?喜んでいいのかしら。そうよね。なんだか、わたしも嬉しくなってきたわ。」

「うふふ、生涯の最後も楽しみましょうね。あら!風さんよ。一緒に走りましょう!」

「ようし、一緒に素晴らしい宙返りしながら行きましょうか!」

秋風に吹かれて、落ち葉が舞い上がり、クルクルと見事な踊りを魅せて、リレーを続けていました。私も、思わず「ありがとう」を何度も繰り返してしまいました。

落ち葉たちが互いに囁いています
「生きている、って素敵なことね。
あなたと一緒の世代に誕生できて嬉しいわ。
美の終焉まで、ずっと宜しくね」
「うん、だから、あなたも元気で枝に留まっていてね。
自然の掟って・・・全てに優しいので一緒に感謝ね。」

(by 徳川悠未)